横山芳春(よこやまよしはる)プロフィール
 1954年3月9日福岡県で生まれる。大学卒業後、那覇市の職員として働きながらと大学で都市計画を学び博士号を取得。2004年度からは市民を育てる教育、環境教育の実践をめざして那覇市宇栄原小学校の校長に就任。環境、NPO、まちづくり、学校づくりなどの分野の講演を多数おこなっている。
 主な著作に『沖縄型エコツーリズムの試み』1999年(沖縄県対米請求権事業協会)、『自立する市民と自治体』1997年(良書普及会)などがある。

 

 『1000のこどもに1000の可能性』その1
   〜「学び合う」を中心に授業を展開〜


 沖縄初、民間人等からの出身校長に私はなりました。昨年度のことです。といっても私は那覇市役所に22年間勤めていましたので、外部起用の校長と呼んだほうが事実に即していると思います。この外部起用の校長は、どのような学校づくりしたいのか、本稿を利用してまとめてみました。
 まず、学校にバックキャスティングの手法をとりいれています。これは以前からある考え方です。理念(将来のあるべき姿)をまず明確に定め、その理念から現在を直視していきます。理念を実現するために現在できることを実施し、一歩一歩、理念に近づいていく方法です。教師たちにも、児童の保護者にも地域の方々にも学校経営の理念をまず示していきます。これがバックキャスティングの方法です。バックキャスティングで注意することの一つは、たとえ困難な状況が今あったとしても、理念まで捨てないことです。

 バックキャスティングの反対の方法は、フォアキャスティングです。現状をみて問題を解決していく方法です。これはどこに進んでいくのか、行き先(目的)が分かりません。
その場しのぎ、対症療法で現実にいつも振り回され、右往左往します。時間とお金の浪費になりがちです。
 では、私が考える理念とは何でしょうか。それは、「1000のこどもに1000の可能性」です。すべてのこどもの可能性を信じ育てていくということです。この理念を実現するために、次の3つの方法を掲げています。
@自己との対話(自分探し)
A他者との対話(友達づくり)
B教材との対話(歴史遺産との対話)
これらは授業の原則でもあります。

 さて、私にも小学生になるこどもがいて、「勉強しなさい」とつい言ってしまいますが、「勉強」とは、無理をすることが本来の意味のようです。商人が、モノを販売するときに「勉強しときました」といって、無理して安くしていますという意味でこの言葉を使っています。つまり、「勉強しなさい」とは、こどもに「無理をしなさい」といっているのと同じようです。それに勉強は個人的な行いです。
 一方、「学び合う」は、個人的な行いではなく人と交わる行為です。「学」の旧漢字は、「學」です。教育学者の佐藤学さんによると、この漢字の字体は、こどもたちが先祖の文化遺産と交わり、こども同士が交り、これらの行為を大人たちの両手で支えているのだそうです。こどもたち同士が交わりながら育っていく、それを大人(教師etc.)たちが支援していく、これが学びということになります。交わりは競争ではなく助け合いです。お互いに学び合うことです。したがって学びは共同の行為です。「学び」は、これからの社会づくりに必要な理念だと私は考えています。競争社会ではなく人びとが助け合って生きていく社会づくりには、学び合いが必要と考えます。知識や技術を、こども同士で共有しあいながら成長していく、そのような学校をつくっていきたいと思います。

 

 『1000のこどもに1000の可能性』その2
   〜子どもたちが感動する授業をめざして〜
 宇栄原小学校に赴任して1年がたちました。あっという間の1年でした。「授業を中心にした学校づくり(あたりまえのように授業を最も大切にした学校運営)」と「環境教育」の種まきができた1年でした。2年目の今年は、かなりステップアップした取り組みができるはずです。
 さて、子どもたちにはもともと、知識欲が備わっていると思います。それは人間が人間になるための本能でもあると思います。学校は授業が中心です。子どもたちは学校で何時間も授業を毎日受けます。その授業ひとつで、子どもたちの知識欲が満たされ、知らないことを知りえた喜びが味わえます。あるいは、さっぱり授業が分からないまま45分間を過ごし、一日中、授業が分からずに欲求不満になることもあるでしょう(1年間、授業が分からないままだと、どれほどの不満が積み重なるでしょうか?考えただけでも恐ろしいことです)。

 では、子どもたちの知識欲を満たすには、どうすればいいでしょうか?それは、ひとえに直接子どもたちに接している教師の力量をあげていくことのみによって実現されることでしょう。力量のある教師であってはじめて子どもたちを満足させることができるのです。このような考えで、宇栄原小学校は、教師の実力アップのために、教師のための校内研修をどこよりも充実させていくことにしました。まず、ベテランも新米も全教員が、1年に1回は研究授業をおこなう。この研究授業は、自らの授業を同僚や教授学の専門家に公開し、その後これらの方々からアドバイスをいただくという方法です。この授業を公開するということは、教師にとってはとてもシンドイことです。自分が裸にされる思いのようです。そこまでして教師たちが自分の"刃を研ぎ"、子どもたちの欲求を満足させ、子どもたちの可能性をひらいていくことを決意したのです。どうか皆さん、先生方に激励の拍手をお送りください。

 この授業研究とあわせて「講師招聘研修」も今年度は3回実施します。日本中から講師を頼まれているとても素晴らしい講師陣を迎え入れます。講師の予定は、川嶋環先生(5月)、野村新先生(9月)、梶山正人先生(12月)です。
 講師招聘研修では、2日間みっちり指導をいただく予定です。昨年度のエピソードを一つ紹介しましょう。梶山先生に歌唱指導をしていただいたときのことです。指導が終わった先生が廊下を歩いていました。たった今まで歌唱について教わっていた4年生の子どもたち5人が、梶山先生を追いかけてきて、先生を取り囲み歌を歌いだしたのです。「先生、こんなに上手く歌えるようになったよ」と子どもたちが言っているように私には聞こえました。今でも思い出すと胸が熱くなる光景です。
 教師に十分な力量があると、子どもたちはこんなにみずみずしい姿を見せてくれるのです。今年度、しっかり校内研修を実施して、素晴らしい子どもたちを育てたいものです。

 

 『1000のこどもに1000の可能性』その3
   〜保護者・教師・NPOで授業を作る〜

  宇栄原小学校の特色のひとつに「環境教育」があります。最終回は、環境教育をどのように行っているかご紹介しましょう。
 まず、なぜ環境教育か? 環境は今世紀最大の課題の一つであるからです。子どもたちが現実の社会問題に取り組んでいくことは、市民性を育てる適切な方法とも考えています。総合的な学習の時間を利用し、系統だった環境教育を実施しています。まず3年生は、「自然を好きになること」。健全な自然を体験学習などを通して学び、現在の自然がいかに病んでいるかを学びます。4年生は、「ごみ問題」。学校という身近なところから出るゴミの問題を学びます。5年生は、「食を通して地球環境を学ぶ」。この学年では、味噌をつくり食べます。大豆はどこで生産され、どのように運ばれてくるか。その過程でどのようにエネルギーが消費されているかなどを学ぶことで、地球の環境問題に迫っていきます。

 さて、昨年度、本校は県内で初めて学校版ISO14001の認証を那覇市教育委員会から受けました。これは子どもたちがワークショップを実施しながら、子どもたち自身の手で環境行動計画をつくりました。その計画に基づいて、環境によい行動をおこない、その後、評価を子どもたちで実施して、見直すべきところを見直しながら、つぎの行動をしていきました。つまり環境活動のPDCAのサイクルを子ども主体でつくり実施していくものです。本校で学校版ISOのノウハウを積み重ねています。それがほかの学校へ波及できたらとも考えています。波及してこそ、子どもたちの努力が社会的な力になると考えています。

 ところで去年のISOの対象は6年生でした。今年度は、対象を全児童と全教職員に拡大していきます。今年度のISOを中心になって構築していくのは昨年度に引き続き6年生です。ISOで継続した環境活動(節電・節水・ごみ減量・みどりを増やす)を実現していきます。
 これらの環境教育を支えてくれているのが環境系NPOのみなさんです。沖縄海と渚保全会(今年度、環境大臣賞受賞)、エコ・ビジョンおきなわ、アースの会、沖縄大学の方々です。
 さらに保護者の学習参加も忘れてはいけません。たとえば、4年生の「買い物ゲーム」では、まずエコビジョンおきなわのスタッフが、保護者と教師にレクチャーをしました。レクチャーを受けた保護者と教師が、今度は、授業で子どもたちに買い物ゲームを実施していきます。これは、保護者も教師もともに学びながら授業をつくっているということです。

 また昨年度は、全校をあげて資源循環に取り組みました。エコビジョンおきなわが実施している「くいまーるプロジェクト」への参加です。これは、スーパーなどからでる生ごみを発酵させて飼料をつくり、豚に食べさせ育てるプロジェクトです。しかもこの豚は低密度で飼育され、抗生物質の投与も極力抑えた方法で飼育し、「食の安全」を考えたプロジェクトです。子どもたちに、資源循環の重要さや食の安全を学んでもらおうということです。なお、このように飼育されたエコ豚を一匹いただき、学校給食でいただきました。このように、本校では、全校あげて環境教育に取り組んでいます。きっと環境意識の高い子どもたち、社会性の高い子どもたちが育っていくと信じています。

 

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